モダンデザインの原点「バウハウス」とは? – デザイン史のキーワード
2026/1/19
現代的な「デザイン」という考え方が広まり始めたのは、1900年代前後になってからのこと。そのデザイン(モダンデザイン)のスタイルや思想を確立したのが、「バウハウス」というドイツの学校でした。
バウハウスとは……
・1919年~1933年にドイツに存在した、デザインと建築の学校
・建築(人の暮らし)を中心に据えて、デザインやアートを考えた
・「大量生産品だけど美しい」現代的なデザインの基礎を築いた
・「機能性=美しい」という、モダンデザインの基本的な考え方を打ち出した
いわば「デザイン文化の原点」であるバウハウスの思想を知り、クリエイティブのヒントを学びましょう。
(文/NDSスタッフ 佐藤舜)
バウハウスは、「建築」を中心にデザインの役割を再設定
バウハウスは「すべての芸術を『建築』を中心に統合する」という考え方から始まったデザイン学校です。
わかりやすく言えば「人の暮らし」を中心として、私たちの毎日の暮らしを彩り、豊かにするものが芸術であると再定義したのです。つまり絵画は「壁を彩るためのもの」だし、彫刻は「部屋に飾るためのもの」……という具合にバウハウスは考えます(正確にはその創始者であるヴァルター・グロピウスが最初に提唱しました)。
その背景には、当時の芸術に対する「①伝統に縛られすぎている」「➁美術界が閉塞的になり、実生活から離れていっている」という2つの問題意識がありました。ここで①の「伝統」とは、具体的には15~16世紀に起こったルネサンス芸術と、その源流である古代ギリシャの芸術を指します。ルネサンスを理想とし、そこから外れる作風や技法を許さないという狭量な考え方が、当時の美術界には根強くありました。
このようなマニフェストとともに始まったバウハウスは、したがって最初は前衛芸術のようなことを教えていました。ワシリー・カンディンスキー、パウル・クレー、ピエト・モンドリアンといった、美術史的には “前衛芸術家” “抽象芸術家” として知られる数多くの作家も、バウハウスの教員として学生指導を担っていた。デザインという概念はまだ黎明期で、前衛アートとの境界線があいまいだった時代だったのです(というよりむしろ、当時 “前衛” とされていた抽象的な芸術が、いまのデザイン文化の基礎になっていると言えます)。
その後バウハウスはどんどんカリキュラムを変遷させ、しだいに「大量生産の機械文明」と「製品の美しさ」をデザインの力で両立させる、という役割を担うようになりました。どういうことでしょうか? 背景となる歴史を解説しましょう。
産業革命により、「粗悪な大量生産品」があふれていた19世紀
18~19世紀にイギリスで始まった産業革命。大規模なエネルギーを生み出せる蒸気機関と、その蒸気機関によって動く大規模な機械が発明されたことで、家具や食器など、さまざまなモノの「大量生産」が可能になりました。
しかし当時はまだ、大量生産された製品の質は低く「美しくなく、使い勝手も悪い」、いわば粗悪品ばかりが出回っていた状況でした。「とりあえず大量生産できて最低限使えればいいや」というのが当時の感覚だったのでしょう。
この状況に異を唱えたのが、イギリスのウィリアム・モリスという芸術家・思想家です。ここでは詳しく述べませんが、モリスは大量生産で雑につくられる製品を否定し、職人の手づくり(手工芸)による美しい生活用品を広めようとしました。この動きは「アーツ・アンド・クラフツ運動」と呼ばれ、のちにモリスの思想を受け継いだデザイン文化が「アール・ヌーヴォー」や「アール・デコ」として欧米に広まっていきます。
しかしこれらは職人の手づくりによる “一品もの” だったため、高価すぎて庶民には手が届かない、いわば高級家具・高級食器のような、普段使いできない位置づけの製品でした。
この「粗悪な大量生産品 vs 美しい手づくり品」という対立を統合し、「大量生産品だけど美しい製品」づくりのデザインの基礎を築いたのが、ほかならぬバウハウスだったのです。設立当初はモリスと同様に「手づくり」の重要性を訴えていたバウハウスでしたが、しだいに「機械文明と芸術の融合」をその使命としていくようになります。
創始者グロピウス:「美しさは機能に従う」
では具体的に、バウハウス的なデザイン思想とはどのようなものだったのでしょうか? ここではその代表格として、バウハウスの創設者であるヴァルター・グロピウスの著書『国際建築』の内容を紹介しましょう。
一口にバウハウスと言っても、各教員ごとに考え方が違うため「これがバウハウスだ!」という統一的な思想があるわけではありません。しかしグロピウスの著書には、いわゆるバウハウス的な考え方が集約されています。
その「バウハウス的」というのは、簡単にまとめれば次のような原則です。
・美しさは、機能性を突き詰めることで生まれる
・機能に無関係な、不要な装飾や要素をなるべく排除する
・丸・三角・四角などの基本的な形状や、赤・青・黄のような原色など、シンプルな要素の組み合わせでデザインをつくる
これはバウハウスが影響を受けていた、パブロ・ピカソやジョルジュ・ブラックのキュビズム(幾何学的な形状をもとに対象を描く美術手法)にも通じるところがある考え方です。
グロピウスは『国際建築』の中で次のように述べています。
しだいに展開し始めた新しい造形精神は、ふたたび物の根本を徹底的に究明しつつある。すなわち、一つの物を正しく機能するように形造るために、たとえば家具や住宅では、なによりもまずその本質が究明されるようになった。(中略)プロポーションは建物の機能に制約されるものであるとともに、その本質以上のものを実現するものであり、また建物にはじめて緊張を、すなわち実用価値を超えた固有の精神的生命をあたえるものである。
ヴァルター・グロピウス (著), 貞包博幸 (翻訳), 『国際建築 (新装版 バウハウス叢書)』, 中央公論美術出版,2020.
言葉は難しいですが、要するにグロピウスは「そのモノの根本の機能(建物なら住む、椅子なら座るなど)に従ってつくられたものが良いモノ・美しいモノだ」ということを言っています。
同時にこの前の文章でグロピウスは、「必然的な理由もなく、気まぐれに装飾を入れてはいけない」という旨のことも述べ、いわばシンプルイズベスト、いまで言うミニマリズムのような考え方を表明しています(※あくまでグロピウス個人の考え方です)。
この宣言のあとのページには、その実例としてさまざまな建築の写真や図版が載っています。これを見ると、グロピウスがどんなデザインを理想としていたか一目瞭然です。それらはすべて、線や四角形、円などシンプルな要素が組み合わされた、抽象的かつ洗練されたフォルムのデザインばかりです。
代々受け継がれてきた装飾スタイルなどの「伝統」にとらわれず、あくまで「機能性」「合理性」という観点からデザインの本質を定義しようとした、グロピウスの思想が明確に表現されているのが本書です。
そのほかにも、バウハウスの教員たちが執筆したデザイン思想は「バウハウス叢書」として出版され、和訳もされているので、ぜひ一度手に取ってみてください。モンドリアン、カンディンスキー、モホリ・ナギといった錚々たるクリエイターたちも執筆しており、たとえばかたちと色の組み合わせ方など、現代のクリエイターのヒントにもなる実践的な考え方がたくさん述べられています(もちろんそれらが唯一の正解というわけではありませんが)。
モダンデザインの「原点」であるバウハウスの思想やその洗練されたプロダクトからは、現代の私たちも大いに学ぶところがあります。
(参考文献)
杣田 佳穂, 『もっと知りたいバウハウス (アート・ビギナーズ・コレクション)』, 東京美術,2020.
阿部公正 (著, 監修), 神田昭夫 (著), 高見堅志郎 (著), 羽原肅郎 (著), 向井周太郎 (著), 森啓 (著),『増補新装 カラー版 世界デザイン史』,2012.
ヴァルター・グロピウス (著), 貞包博幸 (翻訳), 『国際建築 (新装版 バウハウス叢書)』, 中央公論美術出版,2020.
高階 秀爾, 『カラー版 – 近代絵画史(上) 増補版 – ロマン主義、印象派、ゴッホ』, 中央公論新社, 2017.