【読書案内】『エモーショナル・デザイン―微笑を誘うモノたちのために』
2026/2/4
目次
「人のココロを動かすデザイン」のヒミツを科学した名著
人のココロを動かせる、「エモいデザイン」って何?
デザイナーの究極の問いとも言えるこの疑問に、科学の視点から答えたのが本書『エモーショナル・デザイン―微笑を誘うモノたちのために』(2004年)です。
著者ドナルド・A. ノーマン氏は、デザイン研究などを専門とする認知科学者であり、あのApple社にもブレーンとして参入していた経歴をお持ちです。デザイナーのバイブルとされる『誰のためのデザイン?』の著者としても知られ、こちらの本のほうがおなじみの人も多いかもしれません。
『誰のためのデザイン?』がいわゆるユーザビリティ(使いやすさ・わかりやすさ)という、デザインの「ロジック面」を解説した本であるのに対し、『エモーショナル・デザイン』はタイトル通り「エモーション面」を解説した本です。
具体的には認知科学の観点から、人のココロを次の3つのレベルに分析し、それぞれの視点でデザインを考察・設計することが提唱されています。
■デザイン(=人のココロ)の3つのレベル
「感覚デザイン」
……色、かたち、感触など、「五感」の要素。
「行動デザイン」
……使い勝手、使い心地、理解のしやすさなど、デザインを使う際の「体験」の要素。
「内省デザイン」
……(たとえばファッションブランドなど)友達に自慢できる、持っていると自信がみなぎる、インスタ映えするなど、「意味」の要素。
本書『エモーショナルデザイン』のエッセンスを、なるべくわかりやすく解説します。
文/日本デザイナー学院スタッフ 佐藤舜

「感覚デザイン」「行動デザイン」「内省デザイン」--グミのデザインで考えてみよう
『エモーショナル・デザイン』で提唱される、感覚/行動/内省という3つのデザイン・アプローチ。具体的にどのようにデザインに活かせるのでしょうか?
例えばグミのパッケージをつくる例を考えてみましょう。
「感覚デザイン」……色やかたちやフォントの良さ
まず色やかたち、文字のフォントなど、五感的に感じられる要素が「感覚デザイン」です。
グミのパッケージであれば、「パッと見て色味が鮮やか」とか「イラストが可愛くて気分が華やぐ」など、一目見たときに直感的に感じる「良い」という感じです。そのためには、
- 配色や形状といった造形の知識
- 過去の優れたデザインやアート作品のインプット
- 経験によって培われたセンス
- 何より、あなた自身の「こういうデザインが好き!」という直感
などを活かすことで、見た人の本能に訴えるような見た目をつくり上げることがデザインの肝のひとつになります。
またそのために、一流のデザイナーの中には人類学やそれこそ認知科学などを学び、「そもそも人間ってどういうものなのか」というところから理解しようと努めている人も多いそうです(稲葉裕美著『美大式 ビジネスパーソンのデザイン入門』参照)。
「行動デザイン」……使いやすさや、使用体験の良さ
行動デザインとは、その商品の使いやすさや、使い心地の良さなど、使用の際に感じる要素のことです。
グミのパッケージの場合、持ちやすかったり、中身のグミが取りやすかったり、残りの容量が見やすかったり……ということが「行動デザイン」に該当するでしょう。
また「伝える」ということが商品パッケージのデザインの目的だと考えるなら、パッケージの伝わりやすさ、わかりやすさも大事な要素になります。
グミのパッケージが伝えるべき情報とは、「グミの美味しさ」や「味」などです。
極端な話、ブドウ味のグミのパッケージがオレンジ色だったら、お客さんはミカン味のグミだと勘違いしてしまうかもしれません。またいくらブドウ味だからと言って、紫色=毒を連想させるような禍々しい(まがまがしい)デザインは、食品として不適切です。グミである以上「これ美味しいよ」という情報も伝えなければなりません。
デザイナーがよく使う言葉に「シズル感」というものがあります。シズル感とは食べ物のジューシーさを(ツヤやしたたりなどのかたちで)表現することです。このシズル感というのもまた、五感に訴える「感覚デザイン」であると同時に、 “商品の美味しさという情報” を伝える「行動デザイン」でもあると、本書に基づくと解釈できます。
「内省デザイン」……話題性やストーリー性、アイデアのおもしろさなど、「意味」の要素
最後に「内省デザイン」は、商品のもつストーリー性や、思わずSNSでシェアしたくなる話題性、アイデアや仕掛けのおもしろさといった、「意味」に関わる要素です。
わかりやすい例は、「地球グミ」でしょうか。
Trolli社から発売され、2021年頃にブームになったあの地球型のグミ。SNSでバズって人気商品になり、当時はインスタグラムやXなどで、地球グミを食べる様子を動画に撮ったり、購入した商品の写真をシェアしたりする投稿がたくさん流れてきたものでした。
地球グミがなぜあそこまでヒットしたのかは一概には言えないですが、あの地球型の独特の形状や、グミにしては大きなサイズ感、食感、梱包や開封の仕方がユニークだったことなど、他の商品にはない独自性が要因だったと考えられます。
そしてある程度ブームになってしまうと、「地球グミを食べる」という行為そのものがひとつのステータスというか、コミュニケーションの一環、遊びの一環となり、さらにブームに拍車がかかっていきました。
哲学者のジャン・ボードリヤールは、名著『消費社会の神話と構造』の中で、現代人は商品そのもの以上に、商品について回る情報や物語を消費しているのだ、ということを書きました。この理論は、SNSでシェアするためだけに話題の商品を買ったり、話題のスポットの写真やセルフィーを自己演出の手段としてシェアすることに慣れた私たちには、もはや当たり前の感覚になっています。
「内省デザイン」は、高度情報化社会と言われている現代のデザイナーにとって、ましてやAI生成、メタバース、ARなどバーチャルな表現手段とその消費がますます普及していくことが予想される時代を生きる私たちにとって、今後ますます重要性が増していく要素だと考えられます。
人のココロという観点から、デザインの本質について理解を深められる本書。ぜひ手に取ってみてはいかがでしょうか。
(参考資料)
ドナルド・A・ノーマン(2004), 『エモーショナル・デザイン―微笑を誘うモノたちのために』, 新曜社.
稲葉裕美(2024), 『美大式 ビジネスパーソンのデザイン入門』, 翔泳社.
ジャン・ボードリヤール(2015), 『消費社会の神話と構造 新装版』, 紀伊国屋書店.
