40年のアニメーター人生の “恩返し” 。ササユリ舘野仁美が「総合アニメ・デジタルイラスト科」に懸ける情熱
2025/5/30
目次
専門学校日本デザイナー学院の新学科「総合アニメ・デジタルイラスト科」。カリキュラム監修を担当いただいたのは、業界から絶大な信頼を得るアニメーター養成機関「ササユリ動画研修所」。所長であるアニメーター・舘野仁美氏に、新学科に懸ける想いや教育理念、学科設立にあたっての抱負を訊きました。
※新学科の詳細や舘野さんのインタビューについては、YouTubeでもご覧いただけます!
アニメーター人生の「恩返し」として、未来の才能を育てたい
私は小さい頃から絵を描くのが大好きで、毎日のようにチラシの裏などに絵を描いているような子どもでした。
TVの名作劇場などアニメを観ることも好きでしたが、本格的にアニメーターになろうと思ったのは、宮崎駿監督作品のTVアニメ『未来少年コナン』がきっかけでした。躍動感のある動きに魅せられて、こういう作品に自分も関わってみたいと夢見たのです。

それから専門学校のアニメーション科で学び、卒業後、制作会社やフリーランスを経て、『となりのトトロ』からスタジオジブリに参加し、数々の動画チェックの仕事に関わるようになりました。
自分が教わってきたことを伝えることで、業界に恩返しをしていきたいと思っています。どうか私の40年のアニメーター人生の結晶を受け取って、私よりも上手になって活躍していただきたいです。
アニメーターという仕事は、すごくたまらなく素敵
アニメーションは作画部門ばかりが脚光を浴びがちですが、実は色々な部署の方が力を合わせて仕事をしています。たくさんの人たちの力が集まって、ひとつの形に絡まるようにアニメ作品が出来上がっていく。それがすごくたまらなく素敵なんです。

アニメーターの仕事にやりがいを感じるのは、ラッシュ(最終確認)や初号試写(編集完了後の最初の上映)をスタッフみんなで観るときです。あんなに苦労したけどあっという間だったとか、完成してよかったなど、心から思えるのはこの瞬間。悔いが残ることもなくはないですが、編集されて効果音や音楽が入ると、自然と気にならなくなるんです。
公開された後も、自分でお金を払って映画館へ観に行ったりもしますよ。アニメ作品は自分だけが頑張ってできるものではなく、みんなで頑張った成果。完成した作品が良いものであることが、なにより大切だと思います。

アニメの本質を学ぶための、「アナログ×デジタル」ハイブリット授業
授業では、まずはアナログ、つまり紙を使って作画していっていただきます。用意された原画がありますからそれに沿って作画していくのですが、最初はキャラクターなどの動きから学んでいきます。
アナログで勉強する良さは、アニメの構造を理解しやすい点にあります。デジタルだと全ての要素がひとつの平面上に混ざってしまうので、セルの設計というものがよくわからないんですよね。でも、なぜこの設計にしたのかというのが紙だとよく分かるんですよ。こういう風に組み合わせることで効率化を図ってるとか、動きがよく見えるとか、動かしやすいとか。
そういう組み立てを紙で理解しておくと、デジタルを覚えるときにもすんなり入ってくるんです。だから最初は紙で教わってもらいたいです。
まずは顔の振り向き、歩き、走り、といった動きの描き方を体験していただきます。その後は「エフェクト」という、たとえば水しぶきがバシャバシャッとなる動きとか、風になびく旗であるとか。

エフェクトはキャラクターじゃないので描くのが好きじゃない人も多いですが、私が実際に仕事で体験した中では、このエフェクトもキャラクターと一緒に絡んでくる作画がすごく多かったです。ですのでキャラクターと別々に勉強するのではなく、一緒に勉強しておくことが大切だと考えています。ぜひこの学校でしっかり勉強しておいてほしいと思っています。
アニメの設計図「タイムシート」を学ぶ
スタジオジブリで学んだことはたくさんありますが、そのうちのひとつに「タイムシート」があります。
「タイムシート」とは、動画をどのタイミングで何枚描くかなどが記されている指示書のことです。

アニメ業界を目指す人たちは、絵を描くことばかり気になってしまうかもしれませんが、このタイムシートもすごく大事なものなんです。タイムシートを読む、書くトレーニングにもぜひ取り組んでほしいです。アニメーターは「タイムシート」と「原画」、それから「レイアウト」といった指示書に書かれている情報を読んで動きを表現する能力が必要になります。
タイムシートをはじめとした指示書を読みこなし、自在にアニメーションを操れるようになるためには、実際にタイムシートを読みながら原画をクリーンアップし、それを動画に起こすという作業をしながら「あ、動いた!」「あれ、失敗した……」という発見や体験を繰り返していくのが一番の勉強だと思っています。

商業アニメーション制作は1人で行うものではなく、いろんな人の手を経てリレーしていくもの。自分のルールで作業してしまうと、次の工程の人がわからなくなってしまいます。ですから「タイムシート」という基本ルールに沿うことが大切になってくるんです。タイムシートと絵は切り離せないものです。
こういった現場で必要な最低限のルールを、「総合アニメ・デジタルイラスト科」の授業でしっかり伝えたいと思います。
「原画」を目指す人も「動画」を学び基礎をしっかり身につけてほしい
ポイントになる絵を描くのは原画マンの仕事ですが、その絵と絵の間を描く仕事(中割り)を行うのが動画マンといわれる人たちの仕事です。
アニメ業界を目指す人の中には、間の動きを少しずつ描くよりも、大胆なポーズをたくさん描く方が得意で、最初から原画をやってみたいという人もいるかもしれません。しかし、原画を目指す人でも、一度は動画の仕事を経験することが必要だと思っています。動画には画力が必要ですし、動きのある絵を表現するためのルールも覚えられるからです。

いきなり原画を担当する人が増え、手直しをする仕事が多くなるという現場の課題をなくすためにも、動画の基礎を学ぶことは大切です。
アニメーターの卵たちへ
アニメーターは、素敵な風景もそうではない風景も、すべて再現できる力が必要です。それを身につける方法として、普段から人の動きや場所の空気感などを観察してみてください。もしできるなら旅に出て、いろんなものを見てほしいですね。

すでにあるアニメーション作品や、ゲーム、漫画など、誰かがつくったイメージから情報を受け取るのではなく。現実の世界にある実物を、自分の目で見て取り込むことが大切です。
そしてその体験をもとに、人物を入れた背景付きの絵を描いてみてください。画面構成を考えながら撮るスナップ写真でもいいと思います。絵コンテやストーリーボードを描く練習もいいと思いますよ。現実から受け取ったものを心の引き出しに蓄えておけば、自分だけの大きな力になるはずです。
またできたら、古今の名著を読むことも実は大事で。読書から得られる目に見えない教養や感性が絵に与える影響も大きいのです。「アニメをつくりたいなら、アニメや漫画ばっかり読まないで」ってよく年上のクリエイターがアドバイスするのは、そういうことだと思います。

興味の幅、自分が得意な分野や好きな分野についての深い知識もあるといいと思います。他人があまり知らないことを深く知っている、という個性がすごく光り輝くことはやっぱりあります。
最後に
今回私どもが教える動画の授業や、ほかの先生方による画力を上げる授業に真剣に取り組んでいただけたら、卒業してすぐに仕事ができる水準のアニメーターになれると考えています。こういうカリキュラムを作ることを許していただいた専門学校日本デザイナー学院さんにとても感謝しています。
この「総合アニメ・デジタルイラスト科」では、アニメ制作の仕事のルールを理解し、かつしっかり絵の技術もあって仕事ができる方を育てることを大事にしていきたいと思っています。
